妖怪の山のふもとに流れる大きな川。
その元になっている大きな滝の裏には、大きな滝壺が存在している。
そこは一人の機械好きな河童が、自分のアトリエとして使っていた。
暑い夏は涼しく、音はかすかに響いてくる滝音だけ。しんと静か過ぎるより集中しやすい、まさに機械いじりには最適な場所であった。
そんな機械好きな河童、河城 にとりは今日も一人黙々と作業を続けている。
すると、滝を割ってくる音がした。
にとりはすでに、誰が自分の空間に侵入したのかを理解したように腰を上げ、その侵入者を迎えにいった。
「いらっしゃい。魔理沙」
勢いよく滝に飛び込み、この滝壺に入って来た人間の女の子、霧雨 魔理沙。
彼女は一瞬でも滝に打たれ、びしょ濡れになっているにも関わらず、うつむいたままにとりの前で立ち尽くしていた。
「魔法で濡れないようにすればいいって前も言ったじゃないか。そんなに急いでたのかい?……ほら、むこうにヒーターってのがあるから乾かしてきなよ」
それを聞いた魔理沙は、無言のままにとりの指差した方向へ歩いて行った。
「……やれやれ、今日も何かあったんだね」
にとりは横切る魔理沙の目元が赤くなっている事を確認し、ゆっくりと魔理沙の後を追った。
しばらくしてヒーターの炎はつき、魔理沙は近くで服を脱ぐ事無く、ヒーターの前でうずくまっていた。
ごうごうとヒーターから熱風が吹き付け、その音の中にスンスンと鼻をすする音が聞こえてくる。
にとりはそんな魔理沙の様子をしばらくの間うかがっていた。
すると、濡れた衣服からたっていた湯気の勢いが弱くなっている事に気づいた。
「魔理沙。一応服もほどほどに乾いたみたいだし、いい加減離れないと火傷するよ?」
にとりは明るい口調を崩さずに、注意を促した。
それでも魔理沙は動かない。
いつも強がっている魔理沙にとって、泣き崩れた顔を見せる事は、たとえ数少ない理解者であるにとりといえども、見せたくはないものだったのだ。
にとりはそんな気持ちも汲み取りながら、もう一声かけた。
「魔理沙の気持ちはなんとなく解るよ。いつも話してくれてる通りだって。
でもさ……河童の機械で怪我なんかされたら困るし、笑顔になってくれなきゃもっと困るんだよ!」
にとりが近くに置いてあったリモコンを手に取ると、いつもしょっている鞄の中から2つの巨大な手が飛び出した。
魔理沙はにとりの口調の変化で危険に気がつき、顔を上げ警戒したが、
そのときにはすでに、巨大な手が魔理沙を尻から持ち上げ宙にかかげていた。
「だっ、止めろバカ!変なとこ触んな……ぶっひゃっひゃっひゃっ!」
すると巨大な手は、機械とは思えないほどしなやかな動きで魔理沙の腋下、足の裏などをくすぐり始めた。
「やめ、止めろにと……ひぃーっ、勘弁って!」
魔理沙がついに消耗し始めたので、にとりは魔理沙を下ろしてやった。
笑いこけて息を切らす魔理沙と、満足そうに微笑むにとり。
「ね? 私の発明は笑顔になれるものばかりだろ」
「ああ、強引に笑顔にさせて酸欠にさせるような兵器だな……ふふ」
一度無理やりにでも笑ってしまうと、沈んだ気持ちも浮かんでくるものである。
なんだかバカらしくなった魔理沙は生乾きの服をぱっぱと整え、いつもの笑顔でにとりに見せつけた。
「うん。それでよし! 笑顔兵器、第一ミッションコンプリー!」
「笑顔兵器? 拷問器具の間違いじゃないか?」
「なにそれ、ひどーい」
そして二人は冗談と笑いでさっきの湿った空気を吹き飛ばすかのように、ヒーターの近くで話し込んでいた。
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